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職歴

私が高校に入学してすぐ、すごく仲のいい友達ができた。

私たちは一緒にバイトをしようということになった。

近所のスーパーのおむすび屋さん。

初めての履歴書。

右も左もわからない私たちはお気に入りの写真をアルバムからはがし履歴書写真サイズに切り取って貼り付けた。

そして、無事に2人とも受かった。

私は受かった時点で面倒になった。
ぐっち(友達)は面倒くさがり屋ではなかったが、ちょっと、被害妄想の強い人だった。

1週間ほど働くと、ぐっちが言い出した。


「私、いじめられてる。」

ぐっちの被害妄想はとどまるところを知らなかった。
いつも同じシフトで働いてる私から見てもまったくいじめられてはいない。
それどころか、あまりかまわれてもいない。

しかし、ぐっちは止まることのない妄想に踊らされ、結局2週間ほどで辞めた。

私は、ぐっちがいなくなるとちょっと寂しくなったけど、ぐっちの分まで一生懸命頑張った。

ぐっちが辞めて数日後、私はおむすび屋の命、まさしくメインのおむすび作りを命じられた。

がむしゃらに作った。

何十個、いや、何百個のおむすびを作った。
天むすだの、鮭しょうゆだの、それはもう、全種類制覇した。

でもある時、ふと考えた。

おむすびを作る手は休めずに考えた。

「こんなとこで、何やってんだろう。」

そう思った瞬間、私は何もできなくなった。
体調が悪いと嘘をついて、トボトボと帰った。

それからはあの戦場へ行く気にはならなかった。
店長から電話がかかってきた。
腹ただしさを必死に抑えながら店長は私を問い詰めた。

「何してるの!どうしてこないの!」

「あー、はい。ごめんなさい。」

「あなた、自分が悪いことしてるのわかってるの!」

「だって・・・」

「だって、なんなの!!」

「だって、制服があずき色ってのが
 まず気に入らないし、
 もう、面倒なんです。」


私の初めてのバイトは1ヶ月でフィナーレを迎えた。


それから半年後。

またぐっちとバイトをしようと意気投合した。

今度は学校の近くのコンビニ。

やっぱり2人して受かった。
あんまり客のこないコンビニだった。

値札のシールを貼るのが楽しくて、カチャカチャと貼りまくった。

ある時缶ビールを手にした客が、何十枚も値札のシールが貼られてるのを見てギョッとしてた。

裏で何が起こってたのかは知らない。

店長とはあまり顔を合わすことがなかったので私たちが値札貼りに没頭してることも知らないと私たちは思っていた。

気の弱そうな大学生の男の子にレジを押し付け、裏で私たちが遊びほうけていることも、何も知らないと思っていた。

「こんなボロイ商売ないね」などと私たちは言い合い無邪気に笑っていた。


ある日、いつも通り2人でタイムカードを押しに行くとタイムカードの機械に張り紙がしてあった。

「あれ、故障したのかな」と思いながら近づいた。

そこには、筆ペンで書いたと思われる達筆な文字。


「マッチさんとぐっちさんは全然仕事をしないので、もう、来てくれなくて結構です。1週間以内に事務所に給料を取りに来てください。店長。」


私の第一声は
「店長、字きれいだね。」だった。

ぐっちは
「筆ペンを華麗に操ってるね」
と答えた。


それにしても、やられた。

しかも給料、取りに行かなきゃいけないなんて。

振り込んでほしかった。

レジの方から例の気弱な大学生がひょこっと顔を出して言いやがった。


「クビになっちゃいましたね、へへ。」


呆然。

私たちは現実を受け止められず、全てを世の中の不況のせいにした。

高校生にまでリストラの魔の手が忍び寄る時代になったんだねーなんてことを、話しながらそれぞれ家に帰った。

家に帰ると、お母さんが「早かったね、バイトは?」と言った。

「カタタタキだよ、カタタタキ。
 ちくしょう。会社の為に身を
 削ってやってきたのに・・・。」
と、団塊世代を演じてみた。

「どうせ、あんたが悪いんでしょ。」と言われた。


学校を卒業した今でも、ぐっちは私の大好きな人だ。

でもめったに会わない。
面倒だから。

何ヶ月か前、彼女は私に恋の相談を持ちかけた。

「彼氏が、朝鮮人かもしれない。」

さて、どうなったことやら。


           おしまい。

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